仕組みは、細菌にウイルスが侵入した場合、クリスパーとクリスパーの間に、ウイルス由来のDNA情報を取り込む。後に、同じウイルスが侵入すると、クリスパー間に収集した情報を基に、「キャス9(Cas-9)」と呼ばれる酵素が、ウイルス由来のDNAを切断・破壊する、とのこと。狙った遺伝子だけを切り取り、新たな遺伝子を組み込むこともできる技術です。
「ゲノム編集(ゲノムエンジニアリング)」は、生物の遺伝子を狙い通りに操作できる技術で、いわば生命の設計図を自在に書き換えることができるものです。これまでにも「遺伝子組み換え」と呼ばれる技術はありましたが、大きな違いは、「偶然」ではなく「狙い通り」に操作できる点です。
2012年6月に2人の女性研究者、米カリフォルニア大学バークレイ校のジェニファー・ダウドナ(Jennifer Doudna)教授と、フランス出身でスウェーデンのウメオ大学研究員のエマニュエル・シャルパンティエ(Emmanuelle Charpentier)研究員らの共同研究チームによって、CRISPR-cas9が開発され、生物の遺伝子を自在に改変できるゲノム編集に応用できることが証明されました。
遺伝子工学の革命的技術と評価され、ダウドナ博士もシャルパンティエ博士も、ガードナー国際賞やトムソン・ロイター引用栄誉賞をすでに受賞されているので、近い将来、ノーベル賞(ノーベル生理学・医学賞)を受賞すると思われます。
ところで、クリスパー(CRISPR)と呼ばれる遺伝子配列を最初に発見した人は、九州大学の石野良純(いしのよしずみ)教授で、大阪大学微生物病研究所で研究員だった1986年に、大腸菌の遺伝子解析をしていてたまたま発見したのだそうです。
当時は、クリスパー配列の働きまではわからなかったのですが、1990年代に塩基配列の解析が進むと、クリスパーが免疫機能と結びついていることがわかり、世界中でゲノム編集の研究が進み、石野教授の論文も引用されるようになりました。
クリスパーキャス9を開発したシャルパンティエ博士も、石野教授らの研究が、ゲノム編集で「はさみ役」のたんぱく質がDNAの配列にどう導かれていくのかなどの解明の礎になったと指摘していますので、石野良純教授もノーベル賞授賞の可能性があると思います。
石野良純「CRISPR/Cas その発見からゲノム編集技術への応用まで」(生物工学会誌 第94巻第6号)
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